金融引き締めと日本の不動産市況
- 山口ねろ

- 2024年4月23日
- 読了時間: 8分

こんにちは😄
山口宅建士事務所代表の山口ねろです。
今回のブログ記事では、「金融引き締め」と不動産市況の関係について、どのような影響が可能性として考えられるのかを考察してみました。
少々堅いテーマに見えますが、金融をはじめとしたマクロ経済と不動産市況は密接な関係にあり、不動産の値動きを考える際は常に頭に入れておきたいテーマですので、考え方のひとつしてご参考になれば幸いです。
◆はじめに
2023年以降、主要国の中央銀行はインフレ抑制のため金融引き締めに舵を切り始めています。日本も例外ではなく、日銀は長らく続けてきた異次元の金融緩和政策の修正を検討しており、今後金利上昇が進む可能性が高まっています。
本記事では、金融引き締めが日本国内の不動産市況にどのような影響を与えるのか、以下の観点から考察していきます。
金融引き締めのメカニズムと不動産価格への影響
過去の金融引き締め時の不動産市況
地域ごとの影響分析
金融引き締め長期化シナリオ
不動産投資家、住宅購入者への影響と対策
1. 金融引き締めのメカニズムと不動産価格への影響
まずは、金融引き締めとはそもそも何の目的で行われるのか、それが何故不動産価格に影響を与えるのかを考えてみましょう。
金融引き締めのメカニズム
金融引き締めとは、中央銀行が景気過熱やインフレを抑制するために実施する金融政策の一つです。具体的には、以下の手段を用いて、市場に出回るお金の量を減らし、金利を上昇させることで、経済活動を抑制します。
・政策金利の引き上げをおこなう
中央銀行(日本の場合は日銀)が金融機関に貸出金利として適用する金利を上げます。 これにより、金融機関から民間への貸出金利も上がり、経済全体への影響が表れます。
・公開市場操作・ディスクレショナリーオペレーションをおこなう
中央銀行が金融市場の状況に応じて実施する金融政策手段です。
具体的には、国債などの金融資産を売買することで、市場に出回るお金の量を調整し、 金利を上昇させることで、経済活動を抑制します。
・預金準備率の引き上げをおこなう
預金準備率とは、金融機関が預金に対して中央銀行に預けなければならない最低限の預 金額の比率を指します。預金準備率を引き上げる事は金融機関が貸し出しなどへ充てる 資金が減少する事を意味しますので、経済活動の抑制につながります。
金利上昇と住宅ローン金利
金融引き締めにより金利が上昇すると、住宅ローン金利も連動して上昇します。住宅ローン金利上昇は、住宅購入者の返済負担を増加させ、住宅購入意欲を低下させる可能性があります。
投資家心理への影響
不動産投資家は、賃貸収入と、運営コストや借入返済金などの支出の差額で利益を得ています。よって、借入金利が低いほど利益が得られます。
金融引き締めによる景気不安や金利上昇懸念は、投資家心理に悪影響を及ぼし、投資意欲を低下させる可能性があります。
不動産価格への影響
上記の要因により、金融引き締めが長期化すると、不動産価格の下落圧力が高まると考えられます。
2. 過去の金融引き締め時の不動産市況
1990年代前半のバブル崩壊
1990年代前半のバブル崩壊は、金融引き締めが不動産市況に与える影響を如実に示す典型的な事例です。当時の日銀は、バブル景気抑制のため金利を大幅に引き上げました。
その結果、住宅ローン金利が急上昇し、住宅購入意欲が大きく低下しました。
さらに、投資家心理が悪化し、不動産価格が急落しました。
2008年のリーマンショック
2008年のリーマンショックも、金融引き締めが不動産市況に影響を与えた事例です。
リーマンショック後の金融危機対応として、主要国の中央銀行は金利を大幅に引き下げました。しかし、その後の経済回復に伴い、金利が上昇し始めると、不動産価格が下落する動きが見られました。
3. 地域ごとの影響分析
ここでは地域ごとの不動産への影響を考えていきたいと思います。
ここで念頭に置いておきたい事は、現在の不動産市況とそれを取り巻く環境は、バブル期のそれとは大きく異なっているという点です。それぞれの違いを以下の表に簡潔にまとめています。
バブル期 (1980年代後半) | 現在の不動産市況 (2023年) | |
価格 | 全国的に高騰し、都心部では地価が現在の約3倍に達した。その後の下落も全国的に起こった | 都心部を中心に高騰しており、一部地域ではバブル期を超える価格になっているが、郊外や地方ではそこまで高騰していない |
金利 | 低金利ではない (平均金利約5%) | 低金利 (住宅ローン金利約0.3%) |
経済状況 | 好景気 | 比較的良好だが、先行き不透明感がある |
購買目的 | 投機目的が強かった | 居住目的と投資目的が混在している |
購買層 | サラリーマンや投資家 | サラリーマン、投資家、外国人投資家 |
以上を踏まえた上で、今後どのような変化が起きてくるのかを考えてみます。
【都心部】
人口減少や経済環境悪化の影響を受けやすく、価格下落の可能性が高いと思われます。
特に、現在バブル期並みに高騰しているエリアや、投資目的で購入された物件は、本格 的な利上げ前に売却意欲が高まり、価格下落が顕著になる可能性があります。中国、米 国の不動産不況が海外投資家に与える影響も無視できない材料です。
一方で、都心部は交通の便が良く、生活利便性が高いことから、一定の需要は残る可能 性が高いと思われます。
【郊外・地方】
すでに人口減少の影響を受けているエリアに関しては、ここからの価格下落は限定的で あると思われます。
逆に、経済環境悪化の影響や、政府主導の都市機能分散化の推進を受け、地方移住が加 速する可能性もあり、地域によっては価格上昇の可能性も考えられます。
また、これは都心部も同様ですが、自然災害に対する安全性などの要素が価格に影響を 与える部分も大きいと考えられます。
4. 金融引き締め長期化シナリオ
金利上昇幅と期間
金利上昇幅が大きく、利上げの期間が長いほど、不動産市況への影響も大きくなります。
世界的なエネルギー価格の高騰や供給制約、サプライチェーン問題、人件費上昇などが複合的に影響し、インフレが想定以上に高止まりする可能性があります。
インフレが長期化すると、家計の購買力が低下し、景気後退リスクが高まります。
日銀の判断によっては、景気後退リスクを抑制するために、金融引き締めのペースを加速させ、更なる利上げと長期化の方向へ進んで行く可能性があります。
景気動向
景気後退が長引けば、不動産価格下落の幅が大きくなる可能性があります。日経平均株価がが過去最高値を更新した事が記憶に新しいですが、その後は非常に不安定な動きを繰り返しながら全体的には下降トレンドとなっています。また、国民が感じている実際の景況感と株価の乖離も取り沙汰されており、現在の経済動向の特徴となっていると思います。また、ウクライナ、中東、台湾などの地政学的リスクや国際情勢の悪化も景気後退の要素となり得ますので、引き続きマクロの視点で注意が必要そうです。
5. 不動産投資家、住宅購入者への影響と対策
金融引き締めは基本的には不動産市況にマイナスの影響を及ぼすというスタンスでお話を進めてきました。
実際に不動産を買ったり売ったりする私たちにはどのような影響があり、どのような対策が有効になってくるのかをまとめてみました。
不動産投資家への影響と対策
影響
収益性の低下
資産価値の下落
資金繰りの悪化
対策
収支判断にストレスをかけ、投資物件の選定を慎重に行いましょう。
十分な自己資金を確保して投資を行いましょう。
金利上昇や価格下落なども考慮した上で、長期的な視点で投資を行いましょう。
エリアや物件の種別などで適切なリスク分散を図りましょう。
値下がりを好機と捉え、「買い場」との投資判断もあり得ると思います。
住宅購入者への影響と対策
影響
資産価値の減少
購入意欲の低下
住宅ローン金利上昇
対策
金利上昇や住宅価格下落に備え、資金計画や売買のタイミングを検討しましょう。
短期的な価格変動にとらわれず、長期的な視点で住宅購入、売却を検討しましょう。
利便性が高く、かつ災害の影響が少ない場所の物件を選ぶようにしましょう。
変動金利で住宅ローンを組んでいる方は、利上げによる支出増を想定しましょう。
住宅購入の目的を今一度よく見直しましょう。
◆結論
金融引き締めは、日本国内の不動産市況に下落圧力をもたらす可能性があります。
しかし、影響の程度は、金利上昇幅や期間、景気動向、政府・日銀の政策などによって左右され、不確定要素が非常に多く絡んでいます。
また、本記事を執筆するための調査の中で改めて感じたのは、抽象的な表現になってしまいますが、日本経済に影響を与えている現在の世界経済は、歴史的に前例のない、とても特殊かつ複雑な状況にあり、この先どのように発展していくのか、または衰退してしまうのかが著しく不透明な状況にあるという事です。
加えて、地震や水害などの自然災害や、テクノロジーの進化による都市分散化などの影響が無視できないため、不動産市況の将来を考えるには、経済のみならずさらにさらに広い視野での考察が肝要であると強く感じました。
交通の便が良いから価値がある、都心だから価値がある、という現在の不動産鑑定の常識さえ通用しなくなる未来がやってくる可能性があるからです。
長くなりましたが結論としては、
「将来の事は誰にも予測できない」
という言葉につきます・・・。
執筆していて改めて強くそう感じました😅
だからこそ、不動産投資家の方や住宅購入を検討されている方は、目先のことだけで判断してしまわずに、あらゆる可能性やリスクを想定し、長期的に考えて検討される事をお勧めいたします。
私は不動産業者ではないので、無理に購入や売却に踏み切る必要も無いと思えば、ご相談頂いた方には素直にそうお伝えしています。
ご購入やご売却に関してのご相談は無料でお受けしておりますので、こちらからお気軽にメールをいただければ幸いです。
最後まで読んでいただき、有り難うございました🙏✨
参考リンク
住宅金融支援機構: https://www.jhf.go.jp/english/
不動産経済研究所: https://www.reinet.or.jp/
国土交通省: https://www.mlit.go.jp/
東洋経済オンライン: https://corp.toyokeizai.net/en/




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