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共有不動産がもたらす「争続」リスク

  • 執筆者の写真: 山口ねろ
    山口ねろ
  • 12月5日
  • 読了時間: 12分

更新日:12月8日

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持ち家があれば、老若男女誰もが当事者となる問題


先日、FPの友人が講師を務めるセミナーに参加してきました。テーマが「終活と相続」という事もあり、参加者の方はほとんどがご高齢の方でした。


セミナーの中盤で、友人が参加者にこう質問しました。

「うちは相続で揉める事はない、という自信がある方、手を挙げていただいても良いですか?」


6〜7割の参加者の方が手を挙げていたと思います。

その光景を見て、私は危機感を覚えたと同時に、不動産を共有化することの危険性を拡めていきたいと強く感じたのでした。



そもそも「共有不動産」とは何か?


共有不動産とは、1つの不動産を複数の人が同時に所有している状態のことです。

といっても、不動産(特に建物)は、実際に分割することはできませんので、法的な所有権だけが共有持分として分割されいることがほとんどです。

典型的には以下のようなケースで発生します。


a.実家を相続した

b.親子・夫婦で持分を分けて購入した

c.区分マンションの敷地権、私道の持分など

d.投資家が集まって共同出資した


共有持分は表面的には公平でも、法的には非常に扱いが難しい形態です。

c,dのパターンはスキームとして敢えて持分化されているため、権利関係も整理されている事が一般的なのであまり揉め事の種になるケースはないですが、問題になりやすいのはaやbのパターンです。


近年、共有不動産のトラブル相談を受ける機会が急激に増えています。

その原因は大きく2つ。

  1. 人口減少と高齢化による「相続共有」の急増

  2. 共働き夫婦の増加に伴う「ペアローン」普及

比率としては圧倒的に1のパターンの共有が多いのですが、どちらも、日本社会が現在進行形で抱える構造変化の結果です。


私は現在、登記上の共有者が11名、そのうちの数名が亡くなっており、推定相続人がさらに十数名いるという共有不動産の解決のご依頼を頂き、取り組んでいます。

相続人の中には自分が不動産を相続したことに気づいていない方もいらっしゃいます。

ここまで複雑化すると解決には時間もお金もかかります。(後述しますが解決は可能です。)


今回強くお伝えしたいのは、共有不動産は“善意”や“公平のつもり”で誕生するにもかかわらず、将来の争いや資産価値の毀損を招く「時限爆弾」になりうるという事実です。

少し過激な言葉を使わせて頂きましたが、それくらい大きな揉め事のタネになり得るという事をお伝えしたいのです。


冒頭の友人のセミナーでのエピソードから分かる通り、「うちは家族円満だし、共有にした方が平等だ。その方が遺産分割がスムーズに完了するだろう」という遺族側の家族に対する信頼や優しさが生み出してしまう側面もあります。


この記事では、実務で多くの“共有トラブル”を見てきた私の視点と、制度的なリスク分析を組み合わせ、

  • 共有不動産が生まれる理由とその危険性

  • 相続での共有化が「家族崩壊」を招く理由

  • ペアローンはなぜリスクが倍化するのか

  • 今できる最も有効な対策

を体系的にまとめました。

あなたの不動産を「負動産」にしないために、ぜひ最後まで読んでみてください。



1.なぜこんなに共有不動産が増えているのか?


共有になる理由はシンプルに2つです。


① 相続の結果、共有になってしまう

日本人特有の価値観である「事なかれ主義」や、「とりあえず公平に」という感覚が、共有を生み出す最大要因とも言えます。大きなポイントは、不動産は対策をしなければ、法定相続分で共有となってしまうという部分です。

以下のような理由から相続で共有化されます。

  • 遺言書がない

  • 親が「兄弟みんなで仲良く使いなさい」と言った

  • 争いたくないから話し合いを避けた

  • 親族間の調整が煩わしい


しかし現実には、先にお伝えした通り、公平のつもりで選んだ“共有”ほど、不公平とトラブルの温床になります。


例えば、相続人である兄弟姉妹間が仲睦まじく、揉める要素が無かったとしても、その配偶者などが横槍を入れてトラブルに発展するようなケースが多々あります。

また、相続は未来永劫繰り返されるものですから、時間が経つほど複雑になり、手に負えなくなってしまいます。


② 共働き夫婦がペアローンで自宅を買う

ここ数年、都内の不動産価格は上昇の一途を辿り、都心に自宅を持ちたいと思えば億を超える予算が必要となるような時代に突入しました。

しかし、それ相応に私たち国民の年収が上がっているのかというと、決してそうではありません。

そこで登場し、首都圏を中心に人気を博しているのが夫婦で一緒にローンを組んで一つの物件を購入する「ペアローン」です。


夫婦の収入を合わせて、どちらか一人の年収では手が届かないような予算の大きな物件を買えるというメリットがありますが、「共有名義」+「ペアローン」は意外にも複雑な共有形態であり、夫婦が共に債務を抱える事に起因する下記のような弊害もあります。

  • 夫婦の人生設計がローンと不動産に強力に結びつく

  • 返済不能リスクが2倍に増加

  • 離婚時の清算が極めて難しい

  • 団信の効果が片側にしか及ばない場合がある

  • 死別した場合、残された側はローン負担を1人で背負うことになる


ペアローンは“入りやすく、抜けにくい構造”となっている事に注意が必要です。



2.共有不動産が生む3大弊害


共有は、見た目は単純ですが、法律的には極めて複雑な構造を持っています。

ここでは、共有不動産の“3つの本質的リスク”を挙げます。


弊害1:売却、利用、管理が思うようにできない

共有不動産は、下記の通り自由度が極端に低い資産です。

  • 売却 → 共有者全員の同意が必要

  • 増改築 → 全員の同意が必要

  • 賃貸 → 過半数の同意が必要

  • 管理行為(最低限の修繕など) → 過半数の同意が必要


たった一人が「嫌だ」と言えば売却やリフォームはできませんし、

私が経験上お伝えできるのは、意思確認以前に連絡が取れないか、返答の無い方がほとんどです。

そのため、売りたくても売れず、使いたくても使えず、直したくても直せない。


結果として起きるのは…

  • 放置

  • 老朽化

  • 資産価値下落

  • 維持費だけ毎年かかる

  • 最終的には“負動産”化


共有不動産は、空き家増加の理由としてもかなりの割合を占めていると言われていますので、社会問題に直結しています。



弊害2:費用・責任が曖昧で揉める(責任のたらい回し)

不動産は、所有しているだけで継続的に以下のような費用と管理責任が発生します。

  • 固定資産税

  • 修繕費

  • 管理費

  • 草刈り

  • 火災保険

本来は持分割合に応じて支払い義務や管理責任がありますが…

「遠方だから行けない」「長男がやって当然だ」「私は利用していないから払いたくない」

という感情論が混ざり、徐々に揉め事や仲違いに発展してしまいます。



弊害3:相続が続くと権利が細分化し「デッドロック」になる

これは共有の最終形態であり、“最も厄介な状態”です。

1人が亡くなるたびに、その持分は相続人に分配され→ さらに相続人へ→ さらに相続人へ

と細分化していきます。

結果…

  • 会ったことも聞いた事もない遠い親戚が共有者に

  • 意思統一が不可能

  • そもそも連絡先がわからない

  • 相続登記がされておらず正確な共有者すらわからない

  • 誰も責任を取らない

  • 放置 → 老朽化 → 行政代執行へ


    行政代執行とは、老朽化等で放置しておくと危険な建物を、行政が強制的に解体処分する事です。処分にかかる費用は共有者に連帯として請求が来ます。


    高齢化・空き家増加により、行政代執行は各自治体で確実に増えています。

    しかも行政代執行は、以下のような厳しい条件のもとで実行されます。

  • 所有者に再三の指導・勧告

  • 修繕や除却の勧告命令の無視

  • 危険度の高まり

  • 火災・倒壊リスクの指摘

  • 近隣住民からの苦情多発


    つまり、

    「気づいたら解体されていた」というより、

    “放置していた結果として必然的に来る未来” といえます。


    そして解体費は数百万円に及ぶことも珍しくありません。

    さらに、建物がなくなっても更地は残りますが、更地になると固定資産税が何倍にも上がる可能性があります。



番外編:ペアローン特有の「共有債務」という深刻な負荷

ペアローンは債務が絡んでくるという点から、共有不動産の中でも例外的に厄介です。


▷ ① 離婚時の争いが激化

  • 債務超過(残債が不動産の時価を超えてしまっている状態)の場合、売却しても完済できない可能性がある

  • 感情的になっている夫婦が共同で売却の段取りをするのは現実的に困難

  • 片方が再ローンで単独化しようにも、銀行審査が通らないことが多い


離婚の可能性を考えて不動産を買う夫婦はいませんが、どんな夫婦にも離婚の可能性はあります。ペアローンで買われた物件はどちらか一人の属性では買えない物件であることがほとんどのため、離婚時には深刻な問題となります。


▷ ② どちらかの収入減が破綻につながる

  • 病気

  • 産休育休

  • キャリア変更

  • リストラ

夫婦のどちらか1人が返済不能に陥ると、家計全体に影響が及びます。


▷ ③ 団信の恩恵が限定的

団信とは団体信用生命保険の略で、住宅ローンとセットで加入している人が多い生命保険です。債務者が亡くなった際に、ローンの返済義務が無くなるというものが代表的です。

ただし、ペアローンの場合、契約は夫婦で別々になりますので、残された側のローンの返済義務は続きます。

ローンの返済額は変わらずに、子育て+生活費等、夫婦で分担していた負担を1人で背負うこととなり、生活破綻が起きやすいのです。



3.共有不動産を「防ぐ・解消する」3つの対策


以下は、共有トラブルを防ぐ上で最も実効性が高く、現場で効果のある方法です。


対策1:相続は「遺言書」で共有を根本から避ける

まず、「遺言書」と聞くと他人事のように感じる方が多いかもしれませんが、

「死に時は選べない」のです。相続はいつ発生するか分かりません。

そのため、相続の準備は誰もが日常的に備えておくべきです。ここは本記事ではあまり深くは触れませんが、心に留めて頂けるとご家族や親族のためになると思います。

そして、不動産は単独名義で相続させるのが鉄則です。

例:「自宅は長男Aが相続する。その代償として長男Aは長女Bに〇〇円を支払う。」

これは代償分割と言われる方法です。公平性と実務性のバランスが最も良い方法です。

遺言書さえあれば、共有を“最初から防ぐ”ことができます。

もし長男Aに代償金を支払う資力が無い場合でも、相続する不動産を担保にして融資を受けるという事も可能です。



対策2:既に共有なら「早期の共有物分割」で出口を作る

共有になってしまった場合、先延ばしは危険です。

法的にも共有は望ましくない状態とされており、共有解消のためには以下の方法が用意されています。

  • 代償分割(誰か一人が買い取る)

  • 換価分割(売って金銭で分ける)

  • 現物分割(土地だけで分筆可能な場合)


話し合いが困難であれば、裁判所の「共有物分割請求」が現実的な最終手段になります。

これは民法256条を根拠とした非常に強い権利で、行使された場合拒否権はありません。


いずれの手段を取るにしても、個人間での話し合いは困難ですし、調停や裁判に進んでしまった時のために証拠を残しながら進めるなど、重要なポイントもあります。必ず専門家に相談して進めましょう。


対策3:ペアローンを組む前に絶対に話すべき4つのこと

ペアローンは一見魅力的に見えますが、本質的には出口が狭い特殊な商品です。

組む前に以下を必ず確認してください。


① 持分割合とローン負担割合を完全一致

不動産の持分割合と実際の負担額の割合が一致しないと、負担が少ない方は多い方から贈与を受けたとみなされてしまい、贈与税が課税されるリスクがあります。また、ローン返済金の出所にも注意し、財布を完全に分けて管理する必要があります。


② 離婚時の出口を“契約前に”決める

  • 売却する

  • 借り換えでどちらかが単独所有にする

  • 代償金を支払う

不吉ではありますが、ここを曖昧にしてしまうと、離婚時に確実にパニックになります。

銀行や不動産業者はお金を貸すこと、物件を売る事に重きを置いているため、ここまで先のリスクは考えてくれません。現実的に可能な方法を事前に夫婦で話し合いましょう。


③ 収入減・育休・転職のリスクを予め計算する

夫婦でローンを背負う=収入の変動が2人分発生するということです。

返済比率・貯金額・別口座の確保は必須です。


④ 団信ではカバーできない側の死亡リスクを“保険で補う”

残された側のローンが残るため、生命保険・収入保障保険が必要になります。

十分な蓄えがあれば良いですが、残された遺族の負担が生まれないように考えましょう。

また、相続時に不動産を共有にしないように遺言書なども作成しておきましょう。



4.まとめ:遺族のためを思うなら、共有を避けるべき


共有は、一見「公平」ですが、実際には…

  • 売れない、使えない、直せない

  • 価値が落ちる

  • 税金や維持費がかかる

  • 次世代に迷惑がかかる

  • 親族間で関係性が悪化する

という、極めて厳しい現実を生みます。


私が不動産コンサルとして強調したいのは、「円満でいたいからこそ、共有は避ける(または早期に解消する)」という考え方です。


最近では利益を目的に、共有持分の一部を廉価で買い取って、共有物分割請求権を使って交渉をかけてくる不動産業者や投資家もいますので、利益目的の赤の他人が共有者になってしまうというリスクもあります。

実際に私はそういう不動産会社で働いていた経験もありますので、彼らがどういう狙いで持分を買うのかがよく分かります。


第三者の介入により持分の解消に向かうケースももちろんありますが、

共有者間で揉め事もなく平和に過ごしていた場合、誰かが持分を勝手に業者に売ってしまったことで晴天の霹靂のような状況になる可能性も大いにあり得ます。

プロの不動産業者は知識と法律を味方に着けて交渉してきますから、こうなると、売るか買うかの判断を強制的に迫られ、最終的には裁判になりますので逃れる術はありません。


あなたの不動産が、将来的に家族の絆を壊す“負動産”にならないために―今日から、できる対策を一つでも実行してみてください。



もし共有不動産の事、その他不動産の事でお悩みでしたら、いつでもお気軽にご相談ください。


山口宅建士事務所/合同会社NYアセットマネジメント

042-508-3444





 
 
 

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